満月の夜をぬけて

第六夜より、「The World through Our Eyes」という連載のお知らせです。

muskaのお店、第六夜を東京の麻布台に開店して半年が経ち、ようやく慣れてきた頃、コロナウイルスによりわたしたちの暮らしや働き方は大きく変化しました。
いつもよりゆっくりと流れる時の中、かねてから検討していたオンラインショップを開設することを決め、先月半ばにオープン致しました。

オンラインでの販売は初めてのことで、多少不安がありましたが、ありがたいことに注文の中にはお手紙のようにメッセージを添えてくださる方もいらっしゃり、楽しく拝見しています。
そんな中、実店舗では来て下さった方とゆっくりお話しする機会がありますが、オンラインショップではそういったことが難しく、何かそこを埋める事ができないだろうかと考えていたのですが、ここで少しずつ宝石のことや、制作・デザインのこと、日々のことなどを書いていこうと思い立ちました。

不定期な更新にはなると思いますが、長い夜やちょっとした時間の暇つぶしに、ふらっと立ち寄って読んでいただけたら幸いです。
主にデザイナーの私、田中佑香から、そしてときにお店から。
また、今後何かこれについて書いて欲しいなど、リクエストがあれば是非教えてください。

1回目はmuskaのコンセプトやエレメントについて少し触れてみようと思います。

lancscape in Turkey-muska

「またわたしの体には変化が起こりました。老いと衰弱を感じながら、森の洞窟の前に立っていますと、急に自分が他の動物になっているのに気づいたのです。肉体はまだ若々しくなり、心は喜びにあふれ、力いっぱい野山をかけめぐると、今度は猪の王になったのです。
(中略)
わたしはまた年老いて、弱り果てていきました。暗い洞窟の中でたったひとり、三日のあいだ何も食べずにじっとしていました。三日目に、全身の力がぬけたように感じますと、今度は大きな海鷲になっていました。心には再び喜びがもどり、なんでもできるような感じがしました。」
(井村君江『ケルトの神話―女神と英雄と妖精と』ちくま文庫)

小さい頃、鳥や植物に話しかけたり花の蜜を吸ったり、毎日の暮らしは今よりもずっと自然や動物と距離が近かった人が多いのではないでしょうか。
草花で染めた色水は魔力を持ち、天井の木目の模様は恐ろしい生き物に変化し、時間は一瞬一瞬がギュッと凝縮され、そこに流れる匂い、色彩、音や質感、全てが濃厚で、もっとプリミティブな感覚に近いものでした。

かつて、人間は私達の子供時代のように、もっと自然界と濃密に関わり合って生きていました。
民話や神話を読んでいると、上記の引用のように、人と精霊と動物の境目がなくなる話がよく出てきます。

人は自分に親和性の高い動物や植物と繋がり、その名を受け取り、時に精霊と交わり、聞こえない声を聞くものでした。 装身具や楽器、占いや儀式に使う道具などは動物の牙や骨や革、植物の実や幹などを原料に作られ、その一つ一つに意味が与えられました。
遠い昔、「もの」は神聖さを持って吉凶を語る“声”のような強い役割がありました。

symbol book-muska

muskaは、「ay(月)」のシリーズや「su(水)」のシリーズなど、色々なエレメントに分けてジュエリーを作っています。
これは現代のジュエリーに、元来、人々が込めていた装身具の意味合いをもう一度落とし込みたいという気持ちから始めたことです。

言い換えれば、私にとってジュエリーを作るという行為は、身に着ける人にとっておまじないのような要素を持ち、毎日が少しだけ楽しいものになるような、小さな魔法がかかったようなものを作りたいという想いとつながっていました。

こういったコンセプトはmuskaを始める前、旅で訪れたトルコで、人々の暮らしと壮大な自然に大きな感銘を受けたこと、そしてイタリアに料理修行で渡航した友人に「元気でいてね。」と、絹糸を編みパールを刺繍したネックレスを作ったという、2つの出来事が重なったことがきっかけでした。
(ちなみに彼女は今ではイタリアでパートナーと結婚、女の子のお母さんをしながら、料理人として活躍しています。)

エレメント自体の種類も少しずつ増やしながら、それぞれのエレメントのアイテムも増やしていく。まるで宝石の小宇宙が広がっていくようなイメージで作ってきました。
muskaをスタートしたときに初めに作ったエレメントは、「incir(イチジク)」、「su(水)」、「ay(月)」、「doğa(自然)」の4つでしたが、今では随分と数が増えました。

muska's rings designed in early days
muskaとして一番はじめに作った doğaのリング。上から右回りにクリスタル、トラピッチェルビー、ウォーターメロントルマリン

シンボルの話はまた別の機会にも書くつもりですが、こうしたエレメントのシンボルを調べていくと、面白いくらい場所や宗教、時代によって様々な意味を持ちます。
同じ対象が違う意味を持つということは、 それぞれの歴史や土地環境、文化的背景の影響を受け、その力のようなものがネガティブにもポジティブにもなりうるということ。
そして逆に、時代や場所が全く違うのに、不思議と同じような言い伝えを持つものもある。
例えばユグドラシルなど、世界樹のような樹の物語は様々なところで語り継がれているようです。

こうした物語にふれるたび、地球上で人だけが行う、意味を見出すという面白さを感じます。
対象に意味づけをするという行為は、時に大きな力を持ちます。
それは祈りの効能のようなものにも似ています。
私自身を振り返ってみると、こうして黙々とエレメントに基づくジュエリーを作り続けてきたのは、古代の人々が行っていた小さな魔法に触れることが楽しく、そしてその魔法により役割を得た「もの」が持つ力を信じているからだと思うのです。


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