宝石の小宇宙

休止期間を経て2018年にmuskaを再開した時期は、ちょうど2012年の冬にデビューしたときと同じく、ホリデーシーズンでした。
待っていてくださったお客様に感謝の気持ちを込めて、その季節にふさわしい、心がパッと晴れやかになるものを。
そんな気持ちでデザインして生まれたのが、チャームシリーズです。
バラエティ豊かなラインナップにしたのは、「クリスマスツリーにさまざまなオーナメントを飾るように、お客様が気分でチャームを交換して楽しむことができたら」というアイデアからです。
またチャームと組み合わせるベースは、チャーム自体の装飾性が高い分、ミニマルなデザインに。イヤリング、ピアス、ネックレスチェーンを揃えました。
ちなみにイヤリングも展開したのは、私自身が職業柄、金属アレルギーになり、ピアスが着けられなくなったことも関係しています。
同じ境遇の方から頂くのは、イヤリングで気の利いたものがなかなか見つからないというお声でした。
初めて展開したチャームは、「su」(水)、「dans」(舞踏)、「evren」(宇宙)、「bir」(1)、「yedi」(虹)という、5つのエレメント(シリーズ)で構成したコレクションでした。

このときは大好評で、作った本人もびっくりするほどでした。
それ以降、少しずつチャームの種類を増やしてきましたが、今では新作が出るたびにコレクションしてくださる方もいる、定番のアイテムになりました。
今回、いくつかご紹介してみようと思います。
○çiçek(花)

コロナ禍で誰もがなかなか身動きをとれず、家にいることを余儀なくされた頃に生まれた、花のシリーズ。
今振り返るとこの時期のデザインは、植物や動物をモチーフにしたものがほとんどでした。

自然や美しいものに触れて心癒されたいという、自分自身の気持ちが反映されていたように思います。
またミニー・リパートンの『Come To My Garden』というアルバムにインスピレーションを受け、アトリエで繰り返し聴いていました。
あれからもう3年ほど経ちますが、その後もさまざまなアイテムを発表してきた、思い入れのあるエレメントです。
○bir(1)

birはブランド初期からある、さまざまな要素が集まって一つになるイメージのシリーズです。
今ではずいぶんデザインのバリエーションが増えましたが、もともとは色糸、パール、ダイヤモンドを組み合わせる、この意匠から始まりました。
学生時代に神話や民話を読み漁っていた時期がありました。そうした古い物語には、世界樹や宝石の島などを舞台に、さまざまな要素が混沌と混ざり合い、一つの世界が生まれるというコンセプトが多く見られ、そのイメージが本シリーズの背景にあります。
デザインというのは面白いもので、一見バラバラに見える要素でも、あるべき場所に収まるや、絶妙な佇まいと存在感を放ちます。
○dans(舞踏)
舞踏をテーマにしたこのシリーズは、ハーキマークォーツのピアスから始まりました。

トルコでスーフィーの踊りを観たとき、その静と動が同時に存在する場に感動し、これをイメージしたものを作りたいと思ったのがきっかけでした。
このシリーズのチャームはパールやクリスタル、ガーネット&ルビー、エメラルドなど、そのときどきで異なるカラーバリエーションにて展開してきました。
本シリーズにはこの他にも、鳥や、(チャームではありませんが)蝶といったモチーフでデザインをした、賑やかな雰囲気のアイテムがあります。

○evren(宇宙)
数年前、仲の良い友人が宇宙物理学にどっぷりはまり、会うたびに話を聞いていたところ、私も感化されて作り始めたシリーズです。

「素粒子レベルで見ると、私も、私が腕をついているこの机も、そしてその机に手を触れている佑香もみんなつながっているんだよ! これってすごくない?」という友人の話に惹きつけられ、また、ちょうど映画『インターステラー』が公開され話題になっていた時期でもありました。
去年、このevrenシリーズの新作として、惑星をイメージしたプラネットチャームを作りました。
翡翠の木星と、タイガーアイの土星です。

ジュエリーに使う石の種類は、デザインのテーマにもとづいて検討していきます。このチャームの場合、天然石の持つ表情や光の効果が、惑星を想起させてピッタリでした。
このようにアイデア、デザイン、素材がすべてバチッとはまった瞬間には、小さくガッツポーズをしたくなるような気持ちよさがあります。
プラネットチャームは多くの人に愛され、私自身も気に入ってよく身に着けています。

なお今回、新たに3種類を制作しました。ラピスラズリの地球、ムーンストーンの月、サンストーンの太陽です。
この3種類は5月17日からのイセタンサローネでのフェアでお披露目予定。今から楽しみです。