01 2月 六つ目の夜が明ける時 Posted on 2025/02/01 久しぶりのデザイナーズジャーナルの更新。年も明けてアトリエも本格稼働し、バタバタとした懐かしの日々が戻ってきました。こうしてブログを書いていると、いよいよ帰ってきたな!という感じがします。お休み中、応援をしてくださった皆様、本当に温かいお言葉、激励をありがとうございました。休みの間は体だけではなく、心の休息もいただいたような一年間でした。一日中、手も頭もフル稼働だった日々から一転、体調を整えながら、本を読んだり散歩に出かけたり、のんびりした時間を過ごしていました。 また、去年は40歳になった年で節目ということもあり、今後のことをゆっくり考える機会でもありました。少しスピードを落として立ち止まることで、見えてくるものがあるなとつくづく思います。体調が思わしくなく弱気になっていた休止時から、体が整い、先のことが考えられるようになって出てきたのは、まだジュエリーを作りたい、という心の声でした。 少し前にブランド名がSixth Nightへ変わるというアナウンスをしました。実は、この決断をするまでにはとても時間がかかりました。そもそも考え始めたのはコロナ禍の頃。お客様の求めるジュエリーにも変化があり、一点物や和彫など、より作り込んだデザインが増えていった時期です。和彫もより深みが増し、細部の意匠も複雑になる中で、自分たちが受け継いできた日本の伝統的な宝飾技術へのフォーカスが強くなっていきました。また、創設時の全てを一人で作るという体制から、修行時代に出会った職人たちとタッグを組んで作っていく中で、年々、見えてくるものや気になることが増えていったことも背景にあります。 持ち主に長く愛用してもらえるように、丁寧な手仕事と質の高い素材でのものづくりをいつも心がけてきましたが、こうしたものづくりの背景には、前の世代から受け継いだ宝飾技術が欠かせません。私が石留めと和彫の技術を学んだのも、自分にとっては父親の世代の職人からです。先生は卓越した技術の持ち主で、まるで和彫りで彫られた龍は生き生きと空を翔け、花々は咲き誇るような、そんな凄腕の職人でした。 去年SNSで、「一万円で買える18金のジュエリーまとめ」というポストの投稿を見かけました。その背景にどれだけの職人の涙があるかと思うとあまりにやるせなく、思わずスレッズでぼやいたところ、同じ業界の方のみならず、一般の方にも多く賛同してもらったという経緯があるのですが、こうしたアクセサリーが氾濫する中で、職人の工賃や技術継承の問題はより深刻になっています。この長い歴史を持つ宝飾の世界に戻るのであれば、私は何を作ろうか。休止期間はこうしたことをじっくり考えた一年でした。お知らせでも触れましたが、Sixth Night(第六夜)は、夏目漱石の夢十夜に出てくる運慶のお話から来ています。運慶の巧みな鑿さばきによって、見えないけれども確かにそこに既に存在する美を、丁寧に掘り起こしていくというお話です。これは常に私たちのクリエーションの指針となってきました。 muska創設時の「持ち主にとっての小さな同志であるように」という想いはこれからも変わりません。今はそこに、「持ち主に長く愛され、ひいてはそのジュエリーが次の世代まで受け継がれるような、そんなものづくりをしていく。」というのが、私の気持ちです。いずれその先に、自分たちが受け継いだ技術を手渡していけるような流れができるといいなと考えています。 Tags: brand Prev リフォームフェア「BRIDGE」開催のお知らせ