06 3月 宝石をめぐる旅 Posted on 2022/03/06 2022年は、お正月明けからすぐに国内出張や業務が重なり、バタバタした日々でした。そんな中、Instagramでも様子をUPしていましたが、1月末からようやく2年半ぶりに、宝石の仕入れのために海外へ行くことができました。今回の渡航は事前に、通常時であれば必要ない書類作成の他、陰性証明書を取る必要がありました。また、ジェムショーも2021年は開催自体がキャンセルになったこともあり、ギリギリまで行けるかどうか分からず、気が気でない日々で、直前になって無事渡航できると分かったときには、ホッと胸を撫で下ろしました。日本への帰国時にも、現地で再び陰性証明書を取らないと飛行機に乗れないため、渡米中はマスクにゴーグル、消毒と、日本にいるとき以上に対策を取りながら過ごし、なんとか予定通り2月末に無事帰国。帰国後は6日間のホテル待機となり、ブログを書いたり、ベッドの脇でヨガをしたりしながら過ごしました。 今回仕入れに出かけたのは、アメリカのアリゾナ州にあるツーソンという街です。この街は年に一度開かれる、大規模なジェムショー、ミネラルショーでとても有名です。ありとあらゆる鉱物の展示ブースが、屋内にも屋外にも立ち並び、さながら街全体がお祭りのように活気づきます。宝石関連のショーは世界中で開催されていますが、宝石だけでなく標本や原石、インテリア小物まで幅広く展開されるのがツーソンの大きな特徴です。会場によっては一般の人も入ることができます。 小物を見に郊外のジェムショーへ 会期中は、複数の会場があちこちに散らばるため、ほとんどの人が車で移動します。雲ひとつない青空の下、サボテンが立ち並ぶ広大なピンク色の砂地に、アリゾナ、カリフォルニア、ユタ、コロラドなど、様々な州のナンバープレートの車がずらりと並ぶ様子は圧巻です。私たちも、現地に到着したその日にレンタカーを借り、西へ東へ走り回る日々でした。アリゾナは1年のほとんどが晴れで、高い建物がないため、車での移動中も遥か彼方の山々まで見渡すことができます。朝も夕も、抜けるような空がどんどんその色合いを変えていくさまは、仕入れでヘトヘトになった私を毎日元気づけてくれました。 コロナ禍や自国の国政の影響で、直前まで来られると話していた宝石商が来られなかったり、予定していた仕入れができなかったりと残念なこともありました。それでも、一部の限られた宝石商と遠隔でやりとりしていた、これまでの2年間を思えば、相手と直接話しながら宝石に触れ、仕入れができることのありがたさを、ひしひしと感じた旅でした。 今回仕入れた宝石と小物の中から、一部を紹介します。 オレゴンサンストーン アメリカのオレゴン州に鉱山を持つ宝石商から仕入れたサンストーン。muskaでよく使う、サンストーンやアンデシン、ムーンストーンやレインボームーンストーンといった宝石は、実は大きい括りで言うと、同じ仲間の鉱物です。面白いことに、お客様の中でも、たとえばアンデシンを好む方はムーンストーンもお好きだったりします。一見表情が全く違うようでも、共通して感じ取れる雰囲気のようなものがあるのかなと思います。鮮やかな赤色から絶妙な青色まで、なんとも言えない美しさをもつサンストーンは、まさにアリゾナで見た夕焼けのよう。太陽のような赤色のグラデーションや、珍しいバイカラー、また、最も価値の高いブルーグリーンのグラデーションのものまで、豊かな色彩のサンストーンをピックアップしました。 タンザナイト バンで鉱山を回り、スリランカに自身の研磨工場を構える、かなりディープな宝石商に今回巡り合いました。驚くことに、ほとんどがトリートメントをされていない宝石ばかりで、そのどれもが高品質。ときどき、規格外の宝石商に出会えるのが、海外の仕入れの楽しみです。いくつか宝石を見るだけで、どういうスタンスで商売をしているかがよく分かります。宝石を愛する彼らの品々は、見ているこっちまで楽しくなるラインナップで、選定に何時間も費やしてしまいました。ジェムショーでは、価格の交渉や情報の信頼性などで、シビアな場面ももちろんあります。でも、宝石商から聞く話は非常に面白く、「自然から生まれた宝石が純粋に大好きな人たちが、国を超えて集まっているんだ」と感じる瞬間が多々あり、そうした雰囲気が私はとても好きなのです。 ジャスパーの小物入れ 個人的に石のプロダクトには目がなく、天然石の小物入れがほしくて、ここ数年探していましたが、これというものになかなか出会えず。そんな中、イメージにぴったりな小物入れを見つけました。あまりに可愛いので、お店用にもいくつか仕入れることにしました。天然石の面白さは、ひとつひとつ全く表情が異なること。今回仕入れた小物入れは、気づけばジャスパーのものがほとんど。同じジャスパーでも、模様も色も様々で、沢山のバリエーションがあることに驚かされます。私は宝石箱として使うつもりです。今回、厳しい話も耳にしました。採掘は動いていたけれど、流通が止まり現地で値崩れが起きた宝石の話、逆に値段が高騰した宝石の話、また製品(研磨された宝石)はあるけれど、渡航ができない宝石商の話など……。採掘、研磨、トリートメント、制作といった、宝石が原石の状態からジュエリーへ仕上がるまでの工程は、ときには何ヵ国もまたぐことが珍しくなく、自分たちだけが現地に行ければ大丈夫かというと、全くそうではありません。 コロナ禍という未曾有の事態に直面すると、ジュエリーほど世界中の人の手が加わって、ようやくひとつのプロダクトになるものもないなと、より一層感じます。こんな中でも、縁あって仕入れてこられた宝石たち。しっかりデザインして、皆さまにお届けしようと思います。 Tags: life Prev はじまりの日のこと Next デザインの工程