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19 12月 デザインの境界線を超えて
11月に名古屋でのジュエリーフェアが無事終わり、最近はアトリエと家に篭りっきりでした。
アトリエではホリデーシーズンのための制作がひと段落し、少しペースを落として稼働中ですが、催事の後の片付けをしたり、お店では棚卸しをしたりの今日この頃。
名古屋のフェアももうずいぶん前のことのようで、実はまだ1ヶ月ちょっとしか経っていないことに驚きます。
これまで催事を行う際は、muskaをお取り扱いいただいているお店で、企画展として行ってきましたが、今年は新しいことに挑戦してみようと思い立ち、初めて自分達で会場探しから始めて準備をしました。
開催するからには空間をmuskaらしい雰囲気にしたいと思い、オリジナルの什器も制作して持っていきました。
muskaの初期から、ジュエリーに付属するパッケージや展示用小物などは、できる限り自分でデザインをしてきました。
そもそも、なぜ初期からジュエリー以外のデザインも行っていたかと言うと、一つには始めたばかりの頃は予算が殆どなく、工夫するしかなかったということ。
そしてもう一つは、デザインに近い仕事をしていた親の影響だと思います。
私の母は、ホテルのブライダルプロデュースや、建物・店舗内装のディレクションなど、色彩に関わる仕事をしていました。そのため、私が幼い頃、彼女の部屋には壁紙やタイルのサンプル、リボンや布の見本、コンセプトボードなどがいつも散乱していました。
今思えばありえないのですが、小さい頃はたまに、私の学校に病欠の連絡をすると、私を連れて東京に向かい、美術館やホテル、最新の建築物などを巡っては参考写真を撮り、インテリアやクラフトペーパーなどのショールームで仕事のためのサンプルをピックアップ。
私はと言えば、大好きなディズニーランドに連れて行ってもらえるので、「まだかなぁ」と思いながらも我慢して付き合うという、珍道中でした。
シングルマザーで時間がとにかく無かった母の、子との家族旅行と出張を兼ねた苦肉の策だったのだろうと、今になると分かりますが、子供には場違いな、静かで沢山の色彩が溢れる奇妙な場所をあちらこちら連れ回された日々は、なんとも気まずいような、それでいて不思議な世界に迷い込んだような記憶として、今もはっきりと残っています。
こうして振り返ると、頭の中のものをどうやって形にしていくのかというステップは、彼女の仕事を幼い頃から見ていて覚えた部分も大きいように思います。
ここ数年、デザインしたものから何点か振り返ってみます。
muskaのコンセプトは「ジュエリーが小さな同志であれ」と言うもので、歴代のパッケージはどれもジュエリーをやさしく手のひらで包み込むような、ふわっとした優しい佇まいを意識してデザインしてきました。
お店から家に持ち帰ったら、すぐに捨ててしまうような使い捨てのものにはしたくなく、そのまま旅行などにも持ち運べるようにイメージして作ったのが2種類の小さなポーチです。
リング用のポーチは三角錐の形をしています。
これは「ティピ」という、ネイティブアメリカンのテントをイメージしたものです。
彼らの民話に、悪い魔法使いに兄弟を殺された末っ子が、兄弟たちを取り返しにいくお話があり、その中でティピは、魔法使いを倒した後に、死んだ兄弟たちに命が吹き込まれる聖なる「場」として登場します。
このお話を読んだ時に、「ジュエリーに命を吹き込む」というコンセプトで三角錐のテントの形にすることを思いつき、今のポーチのデザインになりました。
また、ピアスとネックレスを入れる四角のポーチは、ネックレスが絡まないように小さな輪を作って革紐を通しており、くるくると巻き付けて閉じる仕様にしました。使い続けるうちに、革紐にも風合いが出てきます。
どちらのポーチも、表布と裏布が各々を美しく引き立て合う組み合わせにし、お客様が楽しめるよう、作る時期によって布地を変えています。
時々、糸の巻き直しやサイズ直しのため、お客様からジュエリーをお預かりする際に、少しくたっとなった小さなポーチたちが一緒にアトリエに戻ってくるのはとても嬉しく、「よしよし、また沢山使ってもらえよ。」という気持ちでお返しします。
お店やオンラインストアでご購入いただいたお客様にお渡ししているメッセージカード。
ジュエリーが手元に届いたとき、一緒に小さな楽しみがついて来るといいなと考え、作り始めたものです。デザイン帳に時々書いている、様々なイラストを組み合わせて作っています。
その時々で、違う種類のカードが手元に届くように、私が好きな詩人の詩の一節や、一言メッセージと組み合わせました。
のんびりですが、少しずつ種類を増やしており、最終的にはタロットカードのように、様々な絵柄を作れたらと考えています。
麻布台にお店をオープンすることにした際、店内の什器や備品などもデザインをしました。予てから、お店をオープンする際は、宝石の美しさを最も引き出す什器にしたいと考えていました。
ジュエリーは宝石を使ったものですので、光の当たり方で、その宝石本来の魅力を引き出せるかどうかが決まります。
仕入れから研磨、制作まで、丹念に作ったmuskaのジュエリーを見ていただくのに最適な舞台として、目線の位置や、光の入り方、アイテムに余計な印象や色味を加えないかなど、細かく検討を重ねました。
これらのデザインは、「こうすればもっと魅力を伝えられたのに」という私の過去の反省から来ています。
これまで、こうしたデザインを行っていることは特に言及してこなかったのですが、コツコツ作っていくうちに、これはどこでデザインを頼んだの?と聞かれる機会が増え、最近はイラストやパッケージデザインなども声をかけて頂くようになってきました。
なんとも面白い流れではありますが、ジュエリーデザインであれ、他のデザインであれ、「誰かのための大切な何かをつくる」という役割を嬉しく思うのです。