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エスキナンサスの朝

エスキナンサスの花がこの寒い時期に開きはじめました。
朝起きると、朝日が窓辺の赤い花や蔦達を柔らかく照らし、そのままテーブルに落ちた丸い光の跡を眺めながら「この瞬間はこんなにも穏やかなのに、世界は大変な状況なのだ」と不思議な気持ちになります。

年明けからは第六夜を通常営業に戻せたらと話していましたが、緊急事態宣言が発令され、引き続き予約制での営業。曇り空のような、この時の流れがまだ続くことにやるせなくなりますが、できることをコツコツと、と言い聞かせています。

またすぐに会えるようになるだろうと、最近はご無沙汰にしていた友人とのオンライン会を、久しぶりに開催しました。
「冬は動物も冬眠するのだから、今はなんとなく全てが鈍く感じても、それは普通かもね」と話しながら、画面の向こうの懐かしい顔に慰められます。

1月は私の誕生日でした。
去年の今頃はお店をオープンしたてで、お店のインテリアの手直しや什器の準備に追われていました。
新型コロナウイルスが日本でニュースになり始めていた頃でしたが、まだどこか遠い国の出来事のように思われ、まさかここまでの事態になるとは予想もしていませんでした。

誕生日は丁度平日でしたので、仕事を休みにし、人の少なそうな時間帯をみて、気になっていたガラスの工芸品の美術展へ。
年明けから、今は学ぶのに最適な期間と思い、学術的なことと技術的なことの勉強を始めました。
そのうちの一つがガラスです。ガラスの工芸も様々な技法がありますが、私が学び始めた技法は、彫金の技術とかなり共通するものがあり、いずれ今のジュエリーと組み合わせていきたいと考えています。

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パナソニック美術館で行われている
「香りの器 高砂コレクション展」

ウイルス対策もしっかりとされており、平日ということもあって会場内は混んでおらず、ゆっくり回ることができました。

時代に沿って様々な技法で作られたガラスの器が展示されており、大変素晴らしいコレクションでした。
緻密に手をかけて作り上げられた造形は、時を経てもなおその美しさを損なわず、観客の心を癒します。

こうした展示会に来ると、「ものづくり」とはこういうものなのだと、縮こまっていた背筋が伸びるような気持ちになります。
では、時代が変わり、スピードや新しいものがどんどん求められる中で、現代に生きる私たちはどういう姿勢で何を作るのか。
変化させていくべき部分と、頑なに「これだけは」と守っていきたいもの。

全てを昔の時代のようにとは中々いきませんが、

「大量生産、大量消費のためのインスタントな制作はしない。
技術と職人を守るものづくりを行う。高品質で、長く使い続けられるジュエリーを作る。
そして願わくばそれが次の世代に渡っていくように」
という思いは、このコロナ禍を経験して更に深まりました。

2012年のスタートから、「身に着ける人にとっての小さな同志であれ」というコンセプトで制作を行ってきましたが、2020年はそのmuskaの本質をより強く意識し、今後の私たちのものづくりについて徹底的に考えた一年と言えます。
嵐のような1年は大変なことも多かったですが、悪いことだけではなく、私にとっては制作に集中することができた年でもありました。

去年はそんな中、様々なお客様のオーダージュエリーを作る機会をいただきました。
(一部はインスタグラムにてご紹介しています。)
皆様それぞれに素敵なエピソードがあり、そうした物語を伺いながら一点物の宝石を使って制作を行うことは、美しい本を装丁するような贅沢な時間です。

年末に、ご自身のためのリングをオーダーされたお客様がいらっしゃいました。
自宅で仕事をする機会が増えたので、手元を時々眺めて元気を出したいとのことで、様々な裸石の中から美しいスターサファイアを選ばれました。
(スターサファイアについて詳しくは、こちらの記事に記載しています。)

宝石を決め、オーダーを進めていく中で、「muskaでは、結婚指輪やオーダージュエリーに、オリジナルのデザインを起こして刻印をお入れしています」とお話をしていた時のこと。
ふとお客様が、「この指輪と私の間に“親密さ”が現れるのですね」と仰いました。

「親密さ」

人が何かに名前を与える行為は、その対象物を世界から区別し、「個」とするものですが、同時に親密さを持つ行為とも言えます。
ジュエリーに刻印を入れることは、名前を与えるような、持ち主と対象物との間に「親密さ」を作る工程なのだと気付かされた瞬間でした。

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ウィリアム・ブレイクの詩の一節が刻印されたオーダーリング

お店をオープンして良かったと思うことの一つに、こうした対話があります。直接のやりとりが難しくなってきている今の情勢ではありますが、工夫をしながら、お店での対話を大切に、今年も沢山手を動かします。

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